相模の小太郎 第1話 小太郎の初恋(前編) 【シーゲルの歴史小説】
相模の小太郎 -蒼き疾風外伝- 第1話 小太郎の初恋(前編) 【シーゲルの歴史小説】
※この物語はフィクションです。
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「おい!!小太郎!!あそこを見てみろよ~!!」(安本源三郎)
「ん…??あっ!!(驚)」(相模の小太郎こと「浜中の小太郎」)
小田原の浜中地区に住んでいる漁師の12歳の少年…
「浜中の小太郎」は…
その日の漁を終えて…小船を浜に上げ…
獲ってきた魚を…小太郎の友人と共に…船から降ろしている時だった…。
「小太郎」の親友で、小田原の漁師仲間でもある…
「安本源三郎」が…指を差した方向を見てみると…。
小田原港に停泊している商船の大船から乗り換えた小船が一艘、
夕陽にきらめいて…黄金色に輝く中を…ゆっくりとこちらに進んで来る…。
その小船には…自分たちの同じ年くらいだろうか…
色の白い…美しい少女が…
夕陽の光を浴びながら…どこか寂しげな表情を浮かべて…乗っていた…。
「き…キレイな女の子だなぁ…(驚)」(鈴木甚兵衛)
「な??そうだろう~??
オレたちと…同じくらいの年ごろだろうか…??
な~??小太郎はどうだ??
あの子…キレイだと思うか…??キレイだと思うだろ~??」(安本源三郎)
「う…うん…(恥)」(小太郎)
しばらくすると…小船は砂浜に着き…
その少女は…親と言うよりは…孫と子と言った表現が合うような…
年の離れた…白髪頭の「爺様」のような父と、数人の付き人と共に…小船を降りてきた…。
付き人がいくつかの荷物を降ろして、
主人らしきその女の子の「白髪頭の父」に確認を取りながら…
せわしく荷降ろし作業を行っている…。
その間、その少女は…侍女に手を引かれながら…
浜辺に立って…夕陽にきらめく…海を眺めていた…。
その少女の遠くを見つめる表情は…
先ほどと同じく…どこか寂しげだった…。
「…………(哀)」(小太郎)
小太郎は…その少女の寂しげな表情に…
胸が苦しく…締め付けられるような…切ない気持ちを感じた…。
まだ春だというのに…
一年中、漁で海に出ている「小太郎」たちは…
日に焼けて…真っ黒なのに比べ…
その美しい少女は…まるで雪の白さような…白い肌をしていた…。
漁師町でもあるこの小田原では…
ほとんど見ることが出来ない…珍しい…色白の少女だった…。
「ねぇ~なんであの子は…あんなに肌の色が白いんだろう…??(驚)」(安本源三郎)
「うん…(驚) このあたりの女の子じゃないみたいだね…??」(小太郎)
「ああ~あれは…たぶん、加賀屋の娘さんだろう…」(鈴木甚兵衛)
「加賀屋の娘…??」(小太郎)
「あれ??加賀屋に…あんな娘がいたっけかなぁ…??」(源三郎)
「ああ~加賀屋は…その名の通り、
「北国の加賀」にある実家の店から…
小田原に渡ってきた回船問屋で…
京や堺にも支店があるが…
加賀の国にある店が「本店」なのさ…。
それを…先代様(北条早雲のこと)が…
小田原の商いを盛んにさせるために…
小田原にも…その支店を作らせたのさ…。
その「北国の加賀」にある本店から…
今、小田原の支店にやって来たんだろう??
北国の加賀は…雪国で…春の訪れが遅く…
こっちは春でも…加賀じゃ今でも雪景色なんだそうだ…。
北国生まれの北国育ち…
だから…あの女の子は…色白なのさ…」(鈴木甚兵衛)
「ふーん…(納得)」(小太郎と源三郎)
「役人でもある…私の父上が…聴いた話では…
加賀の国での…加賀屋の本店は…
この冬に…戦乱に巻き込まれて…全て焼き払われて…失ってしまったそうだ…。
その損失を補うために…
京や堺の店を売り払って…戦乱を避けるために…
唯一残った…この小田原の支店にやって来たそうなんだ…」((鈴木甚兵衛)
「気の毒に…(哀)」(小太郎)
「ああ…(哀)
でも…それだけじゃないぞ…
なんでも…あの加賀屋の娘さんは…
店の基盤を立て直すために…
こっちで花嫁修業させて…
どっかの金持ちのお偉いさんの息子と…
すぐにでも…「政略結婚」をさせる気なんだろうって…??(哀)」(鈴木甚兵衛)
「そうか……(哀)」(小太郎)
「でも…あのジジイ…ゆるせねぇ~な~
自分の娘を売るようなことしやがって…(怒)」(源三郎)
「全てを失って…仕方なかったんだろう…??(哀)」(甚兵衛)
「鈴木甚兵衛」は…
小太郎や安本源三郎の…漁師の子とは違い…
北条家の足軽小頭の末息子で…武士の子だ…。
文武両道の知恵者で、
学識もあり優秀な人物なのであるが…
末息子とあって…
よほどのことが無い限りは…家を継ぐことは無い…。
どこかの武家や商家の婿養子になるか…
実家の寄生虫となって居座って…兄たちの家来や小者となるか…
それとも…武士を捨て…
小太郎らと共に…漁師にでもなるか…??
小太郎には…そんな境遇の友人が多かった…。
小太郎自身も…三男で…、
二人の兄は…もう他家に婿養子に行ってしまったが…
亡くなった小太郎の母の後に再婚した…
「義理の母」と父との間に生まれた…義理の弟二人と妹が一人いる…。
将来は、この義理の弟たちに…実家の後を継いでもらいたいと…
父も義理の母も…小太郎自身もそう思っている…。
こういった家庭環境から…
小太郎も…近い将来…
「独り立ち」することになる立場の子供だった…。
だから…小太郎は…
近い将来「独り立ち」するために…
親元や家族から離れて…暮らし…
同じような身の上の…
源三郎や甚兵衛などの友人らと共に…
「漁」に出ているのである…。
そんな小太郎らの「孤独な境遇」と…
誰も知り合いのいない新たな土地で…
すぐにでも…他家に政略結婚で嫁に出されようとしている…
「加賀屋の少女」には…
同じ「孤独な境遇」を持つ…同士のように感じられる…
同情する気持ちが芽生えていた…。
「しかし…(暗い話題を変えようと明るい表情で…)
あの加賀屋の女の子は…
甚兵衛の妹…「幸子姫(ゆきこひめ)」より…
「姫様」らしいって言うか…(笑&冗談のつもりで…)
「幸子姫」より…
美しくて…キレイな…
娘っ子なんじゃないかなぁ…??(笑&冗談のつもりで…)」(安本源三郎)
「なんだ…オマエ…(怒)
「幸子」のことが…好きだったんじゃないのか…??(怒)」(鈴木甚兵衛)
「えっ…??(驚)
いや…あの…その…(慌&汗)」(安本源三郎)
「鈴木甚兵衛」には…3つ年下の…
妹「幸子」がいて…
小太郎らは…皆、「幸子姫」と呼んでいる…。
この「幸子姫」は…
「鈴木家」の名に恥じないような…
文武両道の立派な「武家の娘」で…
しかも…「美少女」と来ている…。
まだ10歳だと言うのに…
もう縁談の話が出ているほどの「美少女」で…
二人とも…甲乙つけがたい「美少女」だったのだが…
「幸子姫」は…たしかに美人であるが…
男勝りな「美少年」とも言えるような…
それに比べ…「加賀屋の娘」は…
先ほど見た…悲しげで寂しそうな表情と合わせて…
いかいも…
「お姫様」らしい「お姫様」…といった感じに思えたから…
つい…「加賀屋の娘の方がキレイ」と…
源三郎が…口走ってしまったのだった…。
「安本源三郎」は…
「鈴木甚兵衛」の妹「幸子姫」が好きで…
「幸子姫」もまた…
「安本源三郎」のことが好きのようで…
まだ「子供同士」の…友達付き合いような関係であるが…
相思相愛の…人もうらやむ仲…と言った感じの二人なのだ…。
「オマエは…漁師とは言え…
小田原水軍の「勇士の息子」だ…。
このまま二人の仲が良ければ…
いずれは…父に頼んで…
二人を一緒にさせてやろうと思ったのに…(怒)」(鈴木甚兵衛)
「ああ~ごめんなさい…ごめんなさい…(慌&汗)
ちょっとそう思っただけじゃないか…(困)
冗談だよ~冗談~!!(困)
それに…
たとえ…加賀屋の娘が…どんなに美人だとしても…
オレが…幸子姫のことが一番好きだってことは…
オマエだって…良く解っているだろ…??(慌&汗)
なっ!!この通り!!この通り~!!(手を合わせて拝む)」(安本源三郎)
すると…
「ふふふ…(笑)」(少女の笑い声)
小太郎と安本源三郎、鈴木甚兵衛の後ろから…
少女の笑い声が…聞こえた…。
ハっとなって…小太郎らが振り向くと…
そこには…
小太郎らの友人で、
親が「風魔党(北条家の忍び)」で下働きをして…
足柄にある「風間の里」に住んでいる…
少年忍びの「風間の矢五(ふうまの・やご)」と…
少女忍びの風間の市(ふうまの・いち)の…
二人の忍び(忍者)が立っていた…。
後編につづく。