相模の小太郎 第7話 悲しみの理由… 【シーゲルの歴史小説】
相模の小太郎 -蒼き疾風外伝- 第7話 悲しみの理由… 【シーゲルの歴史小説】
※この物語はフィクションです。
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「………(寂)」(加賀屋の娘「静江」)
「………(哀)」(小太郎)
先日、小太郎たちが「加賀屋」に挨拶に訪れてから…
加賀屋の娘「静江」と…小太郎たちの仲は…
急速に近づきつつあった…。
お互いの立場上…
仲の良い「友達同士」というわけにはいかないが…
お互いを見かけると…
「お嬢様…」、「小太郎さん」などと…
笑顔で呼び合うほどの仲になったのだが…
それでも…
夕暮れ時の海を眺める…
「静江」の表情は…
依然として…
寂しげで…悲しい表情のままであった…。
いつもは…静江の侍女や奉公人であったり、
小太郎の仲間など…数人でいることが多かったが…
今日は…それそれの者が出払っていて…
静江が一人きりで海を眺めているので…
「小太郎」が側に付いていてやってくれと…
加賀屋の者に頼まれた…。
そのため…
「静江」と「小太郎」は…二人っきりになって…
加賀屋の庭の敷地から…
夕暮れ時の美しい海を眺めている…。
「………(寂)」(加賀屋の娘「静江」)
「………(哀)」(小太郎)
小太郎は…
(どうして…お嬢様は…
いつも…悲しく、寂しげな表情で…海を眺めているんだろう…??)(小太郎の心の中)
と…思っていても…
なかなか自分からは…クチに出して言えない…
ただ…黙って…
お嬢様の側にいてあげることくらいしか出来ないでいたのだが…
今日は…二人っきりということもあり…
(思い切って…聞いてみよう…)(小太郎の心の中)
そう思って…勇気を振り絞って…静江に尋ねてみようと思った…。
「お…お嬢様…(緊張)」(小太郎)
「ん…??(海を見つめたまま振り返らない…)」(静江)
「お…お嬢様は…どーして…いつも…
そのように…悲しく…寂しげな表情で…海を眺めているのですか…??(緊張)」(小太郎)
「………(何も答えない…)」(静江)
「………(緊張)」(小太郎)
少しの間…沈黙の間があって…
(お嬢様が…話したくないことなら…
このまま…聞かずにいてあげよう…)(小太郎の心の中)
そう思った時だった…
「……(驚)」(小太郎)
小太郎より…少し斜め前に立っている…
「静江」の背中が…
震えているのに気がついた…。
どうやら…静江は…泣いているようだった…。
「………(シクシクと泣く)」(静江)
「お…お嬢様…(哀)」(小太郎)
小太郎は…静江の側にゆっくりと近づいて…
静江の顔を覗き込んでみると…
やはり…静江は…泣いていた…。
小太郎は…静江が泣いている姿を見て…
思わず…抱きしめてあげたい衝動にとらわれたが…
身分や立場上の問題もあって…
たた…静江の側についていてやることぐらいしか…
今の小太郎には…出来なかった…。
静江の涙を見て…
小太郎も…胸を打たれ…シクシクと涙を流した…。
そういう…何ともいえないような…
切なく…悲しい…雰囲気の中で…
静江がゆっくりと…話を始めた…。
「小太郎さん…(涙&笑顔)
なぜ?そなたも…泣くのですか…??(涙&笑顔)」(静江)
「お嬢様が泣いている姿を見ていると…
何とも…悲しい気持ちになって…
つい…もらい泣きをしてしまいました…(悲)」(小太郎)
「そうか…それは…すまなかったなぁ…(涙&笑顔)」(静江)
「いえ…こちらこそ…申し訳ございませぬ…
お嬢様に…悲しい出来事を…思い出させてしまったようで…(悲)」(小太郎)
「いや…わたくしの方こそ…
小太郎さんに…悲しい思いをさせてしまったようですね…(悲&笑顔)」(静江)
「いえいえ…とんでもございません…(悲)」(小太郎)
「しかし…小太郎さんは…
わたくしの涙に…もらい泣きをするとは…
小太郎さんは…心優しい…お人なのですなぁ…(笑顔)」(静江)
「女子のようヤツで…誠に…申し訳ございませぬ…(悲)」(小太郎)
「ふふふ…(笑)」(静江)
静江は…小太郎の優しい気持ちを感じ…
少しだけ笑顔を見せたが…
しばらくすると…すぐに黙りこんで…
いつもの悲しげで寂しい表情に戻ると…
しばらくの間…また沈黙が続いた…
「………(寂)」(静江)
「………(哀)」(小太郎)
静江は…
花がゆっくりと…つぼみを開くかのように…
ゆっくりと…小太郎に…心を開き…
悲しい過去を…語り始めた…。
「わたしが…父と共に…
この小田原に来たことは…おおよそのことは…存じているのだろう…??」(静江)
「はい…。
何でも…合戦に巻き込まれて…全てを失い…
唯一、残った…この小田原の支店に移って来たのだと…」(小太郎)
「そうです…(切ない)
父とわたし…あとは数人の店の奉公人だけを残して…
全て…失った…(悲)」(静江)
「全て…失った…??(哀)」(小太郎)
「そうです…全てです…
店も…母も…兄弟も…(悲&涙)」(静江)
「………(驚&哀)」(小太郎)
「「加賀の国」の港町にあった…
加賀屋の本店は…
大きな船をいくつも持っていて…
周辺の若狭、越前、越中や越後などはもちろん…
京や堺にも支店を持つ…
大きな「回船問屋」だった…。
わたしの家族には…
母と…二人の兄と…二人の姉がおりました…。
二人の兄と…二人の姉は…
共に世帯を持って…妻や夫…子供がおりました…
それらの兄弟夫婦や、一族の者たちと…
多くの奉公人や、取引業者をかかえて…
力を合わせて商いをし、店を盛り立て…
何不自由無く…楽しく暮らしておりました…。
今…この…目の前に広がる…
平和な…小田原のように…(哀)
しかし…世は戦国…
国内の派閥争いよる合戦に巻き込まれ…
戦場と化した…加賀屋のあった港町は…
暴徒と化した…敵兵の乱入によって…火をかけられ…
暴行と略奪によって…全てを失いました…(涙)」(静江)
「……(驚&哀)」(小太郎)
「その光景は…まるで…地獄絵図のようで…
燃え盛る炎の中から聞こえてくる…
獣のように騒ぎ立てる暴徒たちの奇声と…
足弱(女子供年寄り)の泣き叫ぶ声とが…
いまも…この目と耳に…焼きついています…(涙)
それだけはありません…。
わたしの母と、二人の兄や、店の奉公人の男たちは…
わたしの目の前で…殺されました…(恐)
そして…わたしの二人の姉や、兄嫁、店の奉公人の女たちは…
獣と化した…敵兵の男たちに…捕まり…その場で犯されたり…
どこかに…連れ去られて…いってしまいました…
彼女たちが…生きているかどうかの…
その後のことは…まったくわかりません…(涙)」(静江)
「そ…そんな…(驚&哀)」(小太郎)
「わたしは…父と、数人の奉公人によって守られ…
命からがら逃げ回り…
なんとか生き延びることが出来ましたが…
恐ろしい目に…何度も…何度もあいながら…
恐怖のあまり…何度、その場で…自殺しようと…思ったことか…(怖&涙)
共に逃げていく我らの一行が…
一人、また一人と…
殺されたり…連れ去られたりして…
兄嫁や二人の姉…その子供たちも…
わたしの目の前で…暴徒たちに捕まって…
どこかに連れて行かれてしまいました…(怖&涙)
その兄嫁や姉、子供たちの…
助けを求め…泣き叫ぶ声が…
いまも…この目と耳に…焼きついて離れません…(涙)」(静江)
「………(衝撃&呆然)」(小太郎)
「この悲惨な出来事は…
たとえ…このわたしのこの後の人生が…
どんなに平和で…幸福な人生を送ったとしても…
あの地獄絵図のような出来事を…
一生…忘れることは…出来ないでしょう…
助けを求め…泣き叫ぶ人の声や光景を…
一生…忘れることは…出来ないでしょう…(涙)」(静江)
「………(衝撃&呆然)」(小太郎)
「だから…小太郎さん…
わたしが…どんなに…悲しい表情で…海を眺めていても…
わたしが…たくさんの涙を流しながら…海を眺めていたとしても…
どうか…そんなわたしを…理解して…そっとしておいて下さい…(涙)」(静江)
「お…お嬢様……(衝撃&涙)」(小太郎)
その後、小太郎と静江は…
夕陽にきらめく…美しい海を眺めながら…
「静江」のほほにきらめく…悲しみ涙が止まるまで…
ずっと…二人で…海を眺めていた…。
夕刻の小田原の海は…
美しくきらめきながら…
心地よい風と…潮騒の音を運んでくる…
その潮風には…
海で働く人々や…海で遊ぶ子供たちの…
楽しげな声も…一緒に運んでくる…。
まさに…それは…
「平和」そのものの光景だった…。
しかし…
この「平和」な…「小田原の海の光景」も…
今、同じこの時間…
戦乱に巻き込まれる…「近隣の諸国の海」では…
「地獄絵図」のような光景が広がっているのかも知れない…
そして…
この「平和」な…「小田原の海の光景」も…
いつの日か…
戦乱に巻き込まれて…
「地獄絵図」のような光景になる日が来るかも知れない…
「静江」が体験した地獄絵図のように…
小太郎の目の前で…
小太郎の大切な…人たちが…
乱暴され…殺害されて…町が火の海となる…
地獄絵図の…その時が…いつか訪れるかも知れない…
小太郎は…そう思うと…
静江のことが…他人事のようには思えなかった…。
穏やかで…平和そのものに見える…
この小田原の海の光景が…
小太郎には…
何とも…儚く…無情なものに思えた…
天文13年(1544年)…
小太郎…12歳…。
静江の「悲しみの理由…」を知って…
複雑な思いにかられる…初夏の日のことであった…。
(つづく)